小原啓渡執筆集「諸行無常日記」

2008.04.25

「つ」、「月」で。

僕は25年ほど前、照明家としてこの業界に入りました。
直接のきっかけは、行きつけの飲み屋で知り合った照明家に誘われたという経緯がありますが、その時、二つ返事でその誘いに乗ったのには訳がありました。

その出会い以前、ネパールに半年ばかり滞在していた時の話です。

それまで全く山登りなどしたことのない僕が突然、富士山より高いところに立ってみたい、という単純な動機だけで、初冬、単独しかも軽装備でヒマラヤに登り始めてしまったわけです。

学生時代、「八甲田山死の彷徨」などで有名な小説家「新田次郎」が好きで、
とにかく彼の山岳小説はほぼ全て読破しており、山登りに関する知識だけは、まるで一流のアルピニスト状態で、4000M級の山くらいなら、さほど苦労なく登れるだろうと高をくくっていました。

まあ、こういう素人が一番怖い、というのは今だからこそ言えることで、当時は新田次郎の作品「孤高の人」や「銀嶺の人」の主人公きどりです。

ポカラを発ってから約2週間ほどの行程は、いつかどこかで詳しく書いてみたいと思っていますが、とにかく、色々な思い違いやミスが重なって、案の定、雪山で道に迷い、遭難しかけました。

その時、危機一髪、助かったのが「月の明かり」のおかげで、それ以来、何か「光」に関する仕事に就きたいと思い続けていました。

行きつけの飲み屋で、僕をこの業界に導いてくれた照明家の変なおじさんに会ったのも、(昨日のブログで書いたからというわけでもないですが)
今から思えば、すごい偶然だったなと思います。

小原啓渡

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