小原啓渡執筆集「諸行無常日記」
2008.05.27
女形
「お」、「女形」で。
「女形」は、「おやま」あるいは「おんながた」と呼びます。
近年、歌舞伎の世界では、玉三郎さんが一躍人気になって、「女形」という言葉も一般化したように思います。
以前少し書いたかと思いますが、当社は松竹との契約で、歌舞伎における「鳥屋口」(主に花道にある揚幕を開閉する仕事)を請け負っています。(役者さんとの直のやり取りで「きっかけ」を決める数少ない仕事です)
そもそも僕が個人的に任されていた仕事を、後に会社で請け負うようになったのですが、とにかく役者さんを間近で見る機会が多い仕事です。
もちろん、玉三郎さんをはじめ「女形」も至近距離で見ることができるのですが、はっきりいって二通りですね。
男とわかっていながら「ドキドキ」するほど美しい「女形」と、ちょっと近くで見るのは「キビシイ」お年を召した「女形」です。
前者は玉三郎さん、笑也さん、福助さんなど、後者は晩年の梅幸さんや歌右衛門さん、現役では芝翫さんや秀太郎さんなどということになりますが、僕は後者の方々の方により魅かれてしまいます。
一見(特に至近距離では)美しいとは言い難い、年かさの「女形」ですが、芝居が進んで行くにつれて、だんだん本当の若い娘に見えてきたり、女性の怨念のようなものが滲み出てきたり、とにかく「芸」の深さに驚嘆してしまいます。
長い年月、鍛え上げられた「芸」は、「おじさん(おじいさん)」を「絶世の美女」に見せてしまえる力をもっているんですね。
若手の「女形」が、今後20年30年経って、どんな素晴らしい「芸」を更に身につけていくのか、歌舞伎を楽しむ上で、外せないポイントの一つだと思います。
小原啓渡