小原啓渡執筆集「諸行無常日記」
2008.06.02
偽客(さくら)
「さ」、「偽客(さくら)」で。
「さくら」の語源を調べてみると、江戸時代の芝居小屋で役者に声をかける「偽の客」が、パッと派手にやって、パッと消えることから、桜の性質になぞってそう呼ばれるようになったというのが有力なようです。
露天商などの「さくら」も有名ですが、最近ではお店の前に並んで列をつくる「ならび屋」なるものもあるようで、考えてみると、この「さくら」って人間心理をかなり的確に突いていますよね。
自分では判断しかねている状態の時に、他の誰かが踏み切ると、安心感が出てきて自分も・・・とか、舞台の場合だと「観客巻き込み型」という手法があって、「さくら」を使って「見る側」と「見せる側」の境界を外し、一体感を作り出すというのも、うまいやり方だと思います。
元来「さくら」は、他の客を騙し切って姿を消すのがその役目だと思いますが、最近では「さくら」の種明かしをしたり、「さくら」を最初から「偽客」と気づかせつつ他の客を引き込むといった手法も使われています。
販売活動などで「さくら」を使うのは一種の「詐欺」ですから、買う側としても注意が必要ですが、エンターテイメントとしての「さくら」は、場を盛り上げる要素にもなるので、色々工夫して試してみるのも良いかもしれません。
ベガスで見た「ズーマニティー」というヌーボーシルクのショーでは、初老の夫婦が舞台に上げられてMCからさんざん「いじられ」た揚句、最後に強烈な力技のアクロバットを披露して、観客の度肝を抜くという演出がありましたが、僕も完璧に騙されました。
「さくら」には、演技が見えてしまっては失敗に終わるという、かなり高度な演技力が必要で、非常に重要な役回りになる場合が多いですね。
楽しい「サプライズ」は、落差が大きいほど嬉しいものです。
小原啓渡