小原啓渡執筆集「諸行無常日記」
2008.06.27
屋台
「や」、「屋台」で。
福岡などにまだ僅かに残っている「屋台文化」とも言える街の一つの景観が、日本だけでなくアジア全域から徐々に消え去ろうとしています。
路上での営業に伴う衛生上の問題や営業権の問題、交通や裏社会との関係等々、複雑な問題が絡み合っているのはわかりますが、実際、九州に行くたびに、あるいは東南アジアに行くたびに、屋台の数が減っていくのを実感し、僕としてはなんとも悲しい気分になってしまいます。
昨年だったか、元OMSのプロデューサーの山納さんと二人で、上海のアートエギジビションに行った時、夜、一人で何か食べようと旧市街に出ました。
何となく雰囲気に惹きつけられて屋台が何軒も並んでいる寂れた通りを歩き、その中の一軒に腰を下ろそうとすると、そこに先客で山納さんが一人でビールを飲んでおられました。
待ち合わせたわけでもないのに、不慣れな街で、同じ「屋台」を選んでしまうというのは、同業種とはいえ面白いものですね。
崩れかけのビルの前にあるその屋台で、粗末だけど妙においしい中華をつまみ、深夜までビールを飲み交わしながら、
「もう、何年後にはこの辺りも開発されて、屋台もなくなってしまうんでしょうね」と、しみじみ二人で話したのを思い出します。
街が隅々まで管理され、衛生的になるのは、一般的にはいいことなのでしょう。
ただ、そうして画一的になっていく街が、ほんとうの意味で美しく、魅力的な街といえるのかどうか、僕は疑問を感じずにはいれません。
小原啓渡