小原啓渡執筆集「諸行無常日記」
2008.07.18
疎水
「そ」、「疎水」で。
学生時代、京都の北部、上鴨神社のすぐ近くのボロアパートに住んでいて、そのアパートから目と鼻の先に、京都らしい景観という表現がぴったりの「疎水」が流れていました。
ある日、その疎水でテレビのCM撮影をしている現場に出くわしたのですが、そのモデルが「夏目雅子」さんでした。
当時、僕は大学の写真部に所属していましたが、田舎者で世間知らずだったこともあるのでしょう、撮影が押していて、暇そうに木陰で休んでいる夏目さんに直接、「あのぉ、僕、写真やってるんですが、撮ってもいいですか?」と聞きにいきました。
それに気づいたお付きの人がすぐに飛んできて、むげに断られましたが、なんと、夏目さんが、「いいですよ」と言ってくれたんです。
今から考えると、その時の僕の行動は完璧に「終わっています」が、何度か注文を出しながら、浴衣姿の夏目雅子さんをモデルに、フィルム一本分を撮り切りました。
それ以来、僕がすっかり夏目さんのファンになったのは言うまでもないことですが、年に一度の写真展にもその作品を出しました。
僕が在学していた当時の「同志社カメラクラブ」は、最終期の学生運動(主に三里塚闘争)に関わっていた者も多く、作風はかなりハードなものがほとんどで、そんな作品の中に「夏目雅子」ですから、僕がどれほど先輩達からバカにされたかは説明する必要もないでしょう。
その後、夏目さんは人気の絶頂期に白血病で亡くなり、伝説の女優になりましたが、僕もその後、大学を辞め、すべての所持品を処分してインドに行ったので、その作品はネガも含めて今は一枚も手元に残っていません。
ただ、その写真展の期間中に「どうしてもこの写真を譲って欲しい」という女性が現われて、会期後にお譲りしたので、もし彼女が今でもそれを持っているとしたら、いろんな意味でかなり価値が高いと思います。
たまたまでも、その女性がこのブログを見て連絡をくれるなんてことがあれば最高なんでしょうが、夏目さんと一緒にその写真も消えたっていうのも、それはそれで素敵なのかもしれませんね。
小原啓渡