小原啓渡執筆集「諸行無常日記」

2008.07.21

つかこうへい

「つ」、「つかこうへい」

よくよく考えてみると、僕が初めて観た「演劇」は、つかこうへいさんの「熱海殺人事件」でした。
といっても、大学に入ってすぐ、同志社の新町別館という教室のような空間で、大学の演劇部がやっていた公演でした。

兵庫の田舎の出身で、高校時代も映画館で映画すら見れない(町に映画館がなかった)状態だったので、演劇やコンサートなどとは全く無縁の人間でした。

この芝居が、現在の職業を選んだ直接の原因になったわけではないのですが、かなりの衝撃を受けたことは確かです。

思い出すのは、ストーリーや展開の面白さもありますが、やはり人が目の前で演じる「ライブ感」「迫力」に圧倒されたことですね。

ただ、その公演を見て、役者になりたいとか、脚本を書いてみたいというようなことはなく、演出に使われていた一本の赤いレーザー光線に特に興味を持ったことを憶えています。

そう考えると、後に舞台の照明技術者としてこの業界に入った自分の興味の対象が、その頃から光や演出に向いていたのかなと思います。

なぜ、どういうきっかけで、誰とその芝居を観たのかは思い出せないのですが、何かのきっかけはあったはずで、今の自分の仕事に関連させると、その「きっかけ」が大切なんですね。

まったくお芝居など舞台芸術に縁のない人たちに、きっかけを与えて縁を創っていくのが自分の仕事の一つであると認識しているので、何とか思い出そうとするのですが、思い出せません。
それほど、偶然というか、フラッと入ったのかもしれません。

今、近畿経済産業局と、舞台の当日券情報を集めて格安で販売する「Tickets」という事業を立ち上げている最中なのですが、まさにこの事業の目的は「縁のない人たちに舞台との縁を創る」ことだと思っています。

すでに舞台と縁がある人は、基本的に自分で情報を探して、前売り券を購入します。
ただ縁のない人はどうでしょう。
たまたま、駅などで、今日やっている公演情報を目にする、しかもそれが格安、ちょっと見てみようかと思う、
たまたま観光に来ていて、夜のスケジュールが決まっていない、前売りなど買っていないから、今日やっている公演情報と当日券が街の中心地にあるなら行ってみよう。

時間があるから、何となく面白そうだから、そういった軽い動機を刺激して、舞台芸術に触れてもらう仕組みが一つでも増えれば、観劇マーケットが拡大することにつながるだろうというのが、この企画の狙いでもあります。

まだ超えなくてはならない壁がいくつかありますが、うまくこのシステムが立ち上がり、多くの人と舞台との縁結びができればと、実現に向けてがんばっています。

小原啓渡

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