小原啓渡執筆集「諸行無常日記」
2008.08.10
夜
「よ」、「夜」で。
桑名正博の歌に「夜の海」という曲があります。
もう30年近く前、僕がネパールで長期滞在していた時、スタジオミュージシャンのみつおさんという日本人に会いました。
海外で同じ日本人とツルむのが嫌で、たまに会ってもやり過ごすのが常でしたが、みつおさんだけは一緒にいたい人でした。
高いテクニックを持ったギタリストで、彼が借りていた森の中の一軒家によく遊びに行きました。
みつおさんはイギリス人の彼女と住んでいて、夜、気分が乗ると僕と彼女に聞かすともなく、徒然にギターを弾いてくれました。
聞いたことのあるフレーズもありましたが大体は即興かオリジナルで、僕が当時持ち歩いていたハーモニカと朝方までセッションすることもありました。
僕がネパールを発つ前の夜、みつおさんが初めて日本語で歌ってくれたのが、この曲のレコーディングにギタリストとして参加したという「夜の海」でした。
別れという感傷的な気分もあったのでしょう、すごく感動して、コードと歌詞をその場で憶えてしまいました。
僕も少しはギターを弾きますが、何も見ずに弾き語りが出来るのは今でもこの曲くらいです。
ごくたまに、この曲を弾く時、兄貴のようだったみつおさんの顔が浮かんできます。
夜が来る、明日が見えない。
夜の海、あなたが見えない。
冷めていく、二人の恋が。
消えていく、夏の終わり。
通り過ぎてく二人と、お互いにわかっていても、
そんなはずじゃないのに、涙、こぼれそうで、苦笑い。
そして、ドラマは終わり・・・。
帰るとこ、あなたはあるのさ。
僕はまた、誰かを探すさ。
暑い夏、狂った真似して、
少しづつ、本気になったよ。
通り過ぎてく二人と、お互いにわかっていても、
そんなはずじゃないのに、涙、こぼれそうで、苦笑い。
そして、ドラマは終わり・・・・。
小原啓渡