小原啓渡執筆集「諸行無常日記」

2008.10.31

人情

「に」、「人情」で。

「義理・人情」などと言うと、昔の任侠映画のようで古いというイメージが強くなってきたと思います。
実際、言葉自体をほとんど耳にすることがなくなりました。

ただ、僕が大好きな歌舞伎はほぼ「義理と人情」の話だと言っても過言ではありません。
それほど江戸時代の日本はこの概念を大切にしていたのでしょう。

「自由と平等」のアメリカに対して、昔の日本は「義理と人情」がイデオロギー(根底的な信条)であったと考えることもできます。

僕が歌舞伎を見て感動するのは、ひょっとすると遺伝子的に残っている日本人としてのアイデンティティーに歌舞伎で演じられる物語が深いところでヒットするからなのかもしれません。

「義理・人情」という概念は「自由と平等」に比べて非常に複雑怪奇で、誰かに対して義理・人情を通すと、往々にして他の人に不義理をすることになる場合も多く、自己犠牲や理屈では説明できない不条理を内包しています。

歌舞伎によく見られる「切腹」や「子殺し」などを欧米の人たちが理解できないというのはこの辺りに理由がありそうです。

自分が歌舞伎ファンだから言うわけではありませんが、もし現代日本のイデオロギーが「お金」であるなら、少なくとも江戸時代の日本人の方がずっと美しかったのではないかと僕は思います。

小原啓渡

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