小原啓渡執筆集「諸行無常日記」
2008.11.25
牛
「う」、「牛」で。
子供のころ、町の牛乳屋さんに乳牛が3頭いました。
しょっちゅうおばさんが乳しぼりをしていましたが、当時、町内の牛乳をこの牛3頭が賄っていたとは思えない。
いくらなんでもそんなに毎日大量に乳が出るはずがない。
それではあの乳はどこに行ったのだろう。
仕入れた牛乳に混ぜていたのだろうか。それとも牛乳屋のメンツにかけて自分の家で飲む牛乳だけは生乳にこだわっていたのだろうか。
兎にも角にも、僕はその牛たちが大好きで、学校帰りに毎日のように会いに行って、大きな体に触っていた。
普通なら臭いと思う牛舎の匂いも好きだった。
今思うに、その時間が一番ほっこりしていた。
ひょっとして、僕は昔々、牛だったのかもしれない。
小原啓渡