文化施設が経済効果を生む
京都は古くから世界的な文化観光都市としてその名を馳せてきた。東京や大阪と異なり、面積的にも小都市というにふさわしく、市内観光にいたっては自転車
での移動さえ可能である。
数年前、「修学旅行生が最も多く訪れる観光地の1位が、清水寺からディズニーランドへ移行」との報道が流れた。これは歴史的遺産のみでは、もはや観光地
としては不十分であることを示す、一つの象徴的な出来事に思えた。もちろん、現在でも依然として京都ブランドは存在する。「行ってみたい街」の人気投票で
はいつも最上位にランキングされ続けていることも事実だ。しかし、観光客の数は年々減少傾向にあり、特にその徴候は若い世代に顕著である。
都市の魅力はその文化度によるところが大きい。自らの居住域にない環境的、文化的異差を求めて人は旅に出る。人々は非日常の愉しみに至るきっかけを常に
待っているように思える。社寺の特別公開や桜の見頃、紅葉もそのきっかけとなるが、若い世代にとっては十分とは言えない。そこで、彼等の興味を刺激する新
しい観光資源の創設が必要になってくる。
評判になっているミュージカルを観るために多くの人がニューヨークへ行くように、既に潜在的な魅力を備えた都市、京都に人を呼び込む事は、比較的容易な
はずである。
もちろん、文化施設には地域における文化振興の役割があり、その点が重要視されるのは当然である。しかし、地域に対して少なからぬ経済効果を誘発すると
いう大きな可能性があることも忘れてはならない。とかく文化芸術は経済と相反するかのごとくに語られる傾向があるが、寺を中心に門前町が発達したように、
ブロードウェイがニューヨークに多大な経済効果をもたらしているように、人が集まる場所から経済も文化も発展していく事は明らかだ。
ちなみに、ニューヨークの文化芸術産業は州全体で1兆数千億円となる。これは建設産業に匹敵する規模である。また、ニューヨーク市において、芸術関係で
直接的、間接的に創出されている雇用は14万人にのぼる。市当局は年間約100億円の公的資金を芸術支援のために使っているが、それらの活動から生み出さ
れる税収は約300億円にのぼる。これはある意味で「投資」であり、その配当が3倍ということになる。
アートは儲からない、と一般によく言われるが、芸術活動は経済的にも利益をもたらすのもだという研究が、米国では進んでおり、このように実際の数字で証
明してきた。
もちろん、「産業としての芸術」を偏重するのは危険だが、芸術を経済的に成り立たせていく考え方を、日本はもっと取り入れていく必要があると私は考えて
いる。
P.A.N.通信 Vol.47に掲載
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