2度目のファンド公演

 アートコンプレックス1928での「電視游戲科学舘」ロングラン公演は今回で3度目。昨年10月に行なったパフォーマンス集団「キュピキュピ」によるロ ングラン公演に続き、2度目の「エンジェルシステム」を導入した公演となった。
 「キュピキュピ」は歌・ダンス・映像等を複合的に組み合わせたショー形式で観客層も広く、12%の配当を出す事が出来たが、今回はエンターテイメント性 が強いとはいえ「演劇」という単一ジャンルでの挑戦だった事もあり、はたして投資をして頂いた方々に配当を出せるかどうか不安もあった。
 結果的には、損益分岐点を200名程上回る動員で8%の配当を返す事が出来たが、最初の1週間は客足が鈍く、かなり苦しい出だしだった。2週目に入っ て、NHK全国放送で30分のドキュメンタリーとして放映され、それ以降、徐々に動員が伸び、最終的には3日間4公演の追加を行うことが出来た。(全30 公演)
 そもそもロングランは無期限というのが基本であるが、現実問題として乗り越えなければならない多くの課題がある。キャストやスタッフのスケジュールの問 題もあるが、何より、貸し小屋を経営の基盤としている劇場サイドとして、客が入るかどうか分からない公演の為に長い期間を見込みで空けておく事は多大なリ スクとなる。今回は予定公演期間の後に前回の経験も踏まえて数日の予備日を空けていた事で追加公演が実現したが、現状ではこの程度が限度かもしれない。将 来的には無期限のロングラン公演に挑戦したいと考えているが、おそらく場所は劇場ではなく、使用料のかからない休眠施設、もしくは野外という事になるだろ う。
 アメリカでは作品がブロードウェーにデビューする前段階として「トライアウト」というプロセスを経る場合が多い。短期間の公演や地方を回るツアー等をく り返して、作品を練り込んでいく過程を言うのだが、やはりこういった試みも必要だろう。動員数も含めた観客の反応をチェックし、キャストの交代なども含め た改良を重ねていく。その過程に何年かを費やす例も少なくない。
 今、考えているのがそういった舞台制作の在り方であり、そのための準備を既に始めている。脚本も演出も舞台装置もキャスティングも、とことんまで練り込 んで妥協を許さない舞台、どんな客層をも感動の渦に巻き込む舞台を創りたいと思う。それには、十分な資金と無料で自由に使える場所も必要だ。しかし、何よ り大切であり必要なのは、そういった舞台作りが可能であると信じ、諦めずに走り続けるスタッフ全員の情熱であると思っている。
 「ファンド」という誰もが創作活動に参画できるシステムは、まだまだ未熟だが完成しつつある。このシステムを大切に育て、より有効に使っていくために尽 力を惜しまない覚悟を持っている。 今回の公演に御協力頂いた方々に心から感謝すると共に、最高の舞台を創り、感動を共有するために、皆様の更なる御支援 を願います。


P.A.N.通信 Vol.51に掲載

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