中島 貞夫 プロフィール |
「創造とは何か」をテーマに、様々なジャンルで活躍されているアーティストの方々にお話を伺っています。今回は「極道の妻たち」シリーズをはじめ、様々な ジャンル の作品を手掛け、2004年には京都映画祭の総合プロデューサーを務めた 中島貞夫さんにお話を伺いました。
小原
中島監督は映画という世界で創作されているわけですが、映画における創造性に関して、どういった考えをお持ちですか?
中島
結婚式のスピーチを頼まれたときによく話すんですけど、「これから君らは大変なクリエイティブな仕事をするんだ」と。つまり家庭をつくるって事は、もの
凄くクリエイティブな事なんだとね。大体どっちかが死ぬ
まで創り上げていかなきゃいけないわけで、その覚悟だけはないとね、というようなことを喋るんです。
小原
面白いですね。では作品を創るということに関してはいかがでしょうか?
中島
やはり、人間というのは誰でも表現したいと思ってるんじゃないでしょうか。それを実際かたちにするってことが創造するという事だと思うんですね。
学生に一番最初に話すんですけど、なんで芸術大学に来たのかっていえば、根底はみんな一緒で、それは自己表現したいからだろうと。例えば絵を描くとか、
映画を創るとか、髪の毛染めるのもなんでも自己表現なんだけど、その中でどのメディアを使うかってことはあまり重要ではないのかもしれませんね。
例えば映画を選んだ以上は、それを創る為の知識と技術が必要ですが、それらを教える事はできるけども、何を創りたいかは教えられないんですよ。だから映
画を創る事が目的じゃなくて、映画で何を創るんだ?ということが重要ですね。そこを間違えるなと学生たちには話しています。
小原
監督の場合、映画というメディアを選ばれたわけですが、今まで続けてこられたエネルギーというか、そういうのはどの辺りにあるんでしょう?
中島
やはり基本的に、好きだって事ですよ。"飯より好き"っていう言葉があるけど、まあ飯の方がいい時だってあるし、映画よりほかの方がいい時だってあるん
だけど、じゃあ、最後の最後はどうするかよく考えたら、映画の他にやることねぇなぁって事なんですね。
それと最近ようやく分かってきたんだけど、自己完結するものと自己完結しないものがあるでしょ。例えば絵って、描き終わったらそれで自己完結して終了す
るんだけど、映画は自己完結しない。どれだけ商品として一般
の人に受け入れられるか。受け入れられないとそれで終わってしまうんです。つまり再生産しなきゃいけないわけで、純粋にアーティスト感覚だけではやってい
けない部分がありますからね。
映画監督の今井正さんの口癖でしたけど、「映画を創るっていうのは、政治的な部分が半分以上」じゃないかと。要するに「お金を出してくれる人との関係、
特に企業との折衝なんかに半分以上のエネルギーがいるんだよ」っていうことをよく言ってましたね。だから僕より才能があるやつは沢山いたと思うんですけ
ど、やはりそれだけでは生き残っていけないところがありましたね。
小原
中島さんは、他の監督とは違うやり方というか、オリジナリティーを意識して、作品を創られていますか?
中島
特に何もないですけどね、ただものを創っていくと、必ず本質的なものが出てきちゃうわけで…。
小原
まあ一種の癖というか、その人の本質的なものが出そうというのでなく無意識に出てくるって事でしょうか?
中島
そうですね、例えば目線の問題があると思うんですよ。要するにどの角度からものを見てるかってことね。ものを創る場合には必ずその対象物に対して自分の
目線ってものが確実にあるわけでしょ。刑事もので同じ事件を扱っても、刑事の側から描くのか、犯人の側から描くのかで全然違う。これはその人の生い立ちが
影響すると思うんですね。先天的なもんじゃなく、非常に後天的なもんだと思いますけど、そういう目線の問題はどうしても出てきますね。
小原
意識的にこうしようという方法論的なところで、オリジナリティーを出そうとはあまり考えておられないのでしょうか。
中島
やはり方法論そのものは、完全に作品の色づけになりますからね。そういうのはかなり意識的にやっているんでしょうね。例えば素材が女(くの一)なら全部
セットで行こうとか。現代の今を描く作品なら、徹底して全部ロケーションでやろうとかね。ですから方法論の中にもオリジナリティーというのは出てきますよ
ね。
小原
最後に、中島さんにとって一言で「創造」とはなんでしょう?
中島
あえて言うなら「生きている」って事だと言うしかないよね。生きているからいろんな人間が活動しているわけで、活動している限りはどんな人だって白昼夢
を見ていたり、どんなに老いてもその世界の中で自分らしさってのを必死になって求めたりしているわけですから。
小原
本日は有り難うございました。
P.A.N.通信 Vol.54に掲載