アーティストインタビュー
近藤 等則 (トランペッター)

近藤 等則 プロフィール
本場ヨーロッパ、アメリカのジャズシーンで高い評価を得ている孤高のトランペッター 。日本においても映画、CM等への音楽提供、出演など多数。 1984年の近藤等則IMAバンドとして天安門事件への抗議ライブの後、93年から活動の拠点をオランダ、アムステルダムに移す。 2000年「Mt.Fuji Aid 2000」、2001年「ダライ・ラマ14世提唱 世界聖なる音楽祭・広島2001」をプロデュース。 現在は「FREE ELECTRO」「CHARGED」等のユニットでも活動中。

「創造とは何か」をテーマに、様々なジャンルで活躍されているアーティストの方々 にお話を伺っています。
今回はヨーロッパ、アメリカのジャズシーンで高い評価を受 け、日本でもライフワークとする「地球を吹く」シリーズ(NHK)で「大自然と対峙 した入魂の演奏を続けているトランペッター近藤等則さんにお話を伺いました。

小原
 近藤さんにとって"創造"とは何でしょうか?

近藤
 生命、命こそ創造そのものだと思うんだよね。
 僕はこの10年間"地球を吹く"という、地球の大自然の中でトランペットを吹くとい う作業をやってきたんだけれど、その体験の中で感じたのは、"共振"・"共鳴"という のかな、それこそが命そのもののような気がしたんですね。晴れでも嵐でも、人の悩 みも、あらゆることが実は"共振"・"共鳴"であって、その"共振"・"共鳴"を、僕は表 現できたらいいなと思っているんですよ。

小原
 その"共振"・"共鳴"という中に、創造の源が存在するのでしょうか?

近藤
 そうですね。すべての命を生み出す源があるよね。それに向かって"共振"・"共鳴" をする行為が人間にとっての表現じゃないかなと思うんですね。だから人間が勝手に 悩みを作り出して、それをほじくり返してガタガタやるのは表現だと思わないんです ね。
 西行や松尾芭蕉のように、自然の中を旅して短歌や俳句を読むってことは、生命の 源との共振・共鳴現象だと思うし、僕もそういう表現をしたいと思っているんです。
 ただ、今は地球レベルじゃなくなったわけだよね。というのは最近火星に海があっ たというニュースが流れたでしょ。これは大変なことで、なぜなら広大な宇宙の中で、 あまたの命の繋がりがあるわけだから。僕は今、人類が話をすべきなのは実はここだ と思うんだよ。
 つまり21世紀の人間の表現は、宇宙的な意識をどう表現しようかということに尽き るんじゃないかと思う。20世紀は人間の意識をどんどん開放した世紀で、21世紀は、 無意識を開放する世紀だと思う。

小原
 その”無意識の開放”というのは?

近藤
 命そのもの開放するってこと。普段、意識で生きていると思っているけれど、命と は実は無意識で成り立っているんだよ。食べたものを消化するとか、無意識に食べさ せてもらって生きている。意識とは無意識の海にちょこんと浮かんでいる船にすぎな いわけでしょ。それは、無意識の開放といってもいいし、無意識との"共振"・"共鳴" 現象といってもいい。

小原
 そういう無意識と"共振"・"共鳴"するというのは、具体的にはどういうことでしょ うか?

近藤
 例えば、きれいな女の子を見たら、いいなと思うでしょ。その事なんだよ。
 きれいな女の子だなあと思った瞬間には、その女の子と喋りたい、できることなら エッチしたいと思うわけじゃない(笑)。要するに共振させようとする気持ちが一瞬 に沸くんだよ。そういう時は、お金が無いとか、そういう普段の日常意識は吹っ飛ん でいるわけだよね。

小原
 人間は、そういう一種の本能的な感情・愛情を持っているのに、社会の中で押し隠 してしまう部分がありますよね。

近藤
 やはり自分自身に素直になることだと思うんだよね。女の子をかわいいなと思った 瞬間というのは自分自身何か感じたわけだよね。感じたら動かないといけない。そう しないと仲良くなれないわけだよね。感じたら動くということ、それが"感動"なんだ よ。受身では感動がないんだよ。人間とは動く物と書く"動物"の一つじゃない。だか ら感じたら動くんだよ、そしたら何かが起こるんですよ。頭でコントロールしている 間は、自分自身の内なる声って聞こえないわけじゃない。
 現代の人は、あまりにも情報にがんじがらめになっていて、感じても動かない。で も感じてないわけじゃないんだよ。動いて、それで失敗することがあるだろうし、お ねえちゃんが逃げていくこともある。でも失敗の積み重ねもまた面白い。そういう楽 しみ方ができたら人生面白くなっていくと思うんですよ。失敗を恐れて、頭ですぐ処 理してしまう。そうすると命からどんどん遠ざかっていってしまう。
 養老孟司の『バカの壁』っていう本がいっぱい売れているよね。彼が言っている事 は要するに、脳=都市で、身体=自然であって、もっと身体とか自然を取り戻しなさ い、ということだと思うんだよ。

小原
 結構みんな、何かおかしいなとか、このままじゃダメじゃないかと気付き始めてい ると思うんですけど、でも実際は、創造的に生きるために具体的に何をしたらいいの か分からないんだと思うんですが…。

近藤
 ありのままでいいと思うんだよね。僕の場合、精神的につらい時期には、「朝起き たらまず自分がしたことをしよう」って自分を励ましてきたんですね。
 今のシステムがちょっとだけ哀しいのは、朝起きたらまず金をもらう為に仕事をし なければいけない。そして仕事が終わってから好きなことをする。でも、それは逆だ と思う。朝起きて一番エネルギーが充実しているその時にこそ、命そのものと直結す る好きなことをやるべきだよね。

小原
 最後に"創造"とはあえて一言で言うと?

近藤
 "命そのもの"だよね。だからあらゆる人間、存在が創造的なんですよ。

P.A.N.通信 Vol.55 掲載

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