原 美香 プロフィール |
「創造とは何か」をテーマに、様々なジャンルで活躍されているアーティストの方々にお話を伺っています。
今回は、文化庁芸術家在外研修員としてニューヨークにて研修の後、関西を中心に活躍し、2004年からはドイツ・アイゼナハ市立劇場ソリストを務めたバレ
エダンサーの原美香さんにお話を伺いました。
小原
早速ですが、最近は海外のカンパニーに所属して踊られているわけですが、日本と海外で実感した違いはありますか?
原
観る側の見方が違うと言うんでしょうか。日本だったらお客さんにチケットを売って観に来てもらうという感覚が強いんですけど、向こうはお客さんがチケットを買って私達が踊るプロであるという意識が強いですね。それに、関係者だけでなく一般の人が身近に楽しんで何かを感じて帰ってもらっているという印象がありますし、向こうの方がよりリラックスしてできる雰囲気があるかと思います。
小原
では、創造していく現場での違いについてお伺いしたいのですが。相対的に日本と欧米ではもの創りに対する根本的な姿勢も違う気もするのですが…?
原
そうですよね、まあうちのディレクターやダンサーもそうですけど、一つの舞台を作る際、固定観念が無いというか自由な感じで"これをしなければいけない" じゃなくて"自分は何がしたいか"を一番に優先するという感じがありますね。まあ時間をかけられる余裕もあるからでしょうけど、色々試して最終的にどれが良いか選んでいく。
私も日本人の中では、どちらかというと固定観念がなく自由じゃないかなと思っていたんですけど、でも実際向こうに行くと、もっとみんな個性的で自分が何をしたいかっていうのがハッキリしている感じがしましたね。
小原
クラシックバレエというのは、コンテンポラリーダンスなどと比べると、古典的な作品やフォームというような枠組みがあると思うのですが、その中で演じる
という事に関してはいかがでしょうか?
原
私は、無から新しいものを創るっていうよりも、どちらかというと限られた条件の、この振付けっていう枠組みの中で自分らしさを出すということに関心があ
ります。普通思うに、振付けが同じだったら誰が踊っても同じはずじゃないですか。でも、それが実際違うっていうのは、個人の個性がどこかに現れているはず
なんですよ。そこにクラシックの面白みがあると思うんです。
小原
では、そういう枠組みの中で、より個性的であり自分らしい踊りを踊るために心掛けている事はありますか?
原
それはほんとうに長い間やっていても常に考えるところで・・・。バレエって、音楽というか、音、リズムと一緒じゃないですか。それを自分が感じるままと
いうと変ですけども、それに身体を任せられ、心地良くなれたら良いなと思っているんです。
小原
バレエは肉体的にも激しい運動ですよね。その中で心地良さみたいなものを感じる瞬間っていうのはどんな時ですか?
原
そうですね、激しくても音と自分の動きが合っている瞬間というのは、リズムが身体を動かしてくれるところがあるんですよ。そういう時っていうのは心地良
いですし、気持ちが良いですね。でもそうなるまでには練習とかトレーニングをして、自分の肉体を自分がコントロール出来ている状態でなければならないです
けどね。思っていても身体が動かないとなかなかその状態にはならないですから。
小原
自分のオリジナリティをダンスの中で表現していくためには、練習やトレーニングだけではなく、日常生活の中で何か意識されている事はあるんでしょうか?
原
どうですかね〜。これは無意識かもしれないですけど、現状に満足できない性格みたいで、常に今ある状態じゃない次の段階を見つけてしまう。
小原
それが創造する上でのエネルギーの一つでもあると?
原
そうですね。創造という事でいうと、自分の知らない世界を知りたいっていう様なものがエネルギーとなって、
"次の段階の自分自身を創る"という感じかもしれません。それは今まで人がした事が無い事をしてみたいっていう部分でもあると思いますし、踊りにも多分表
れていると思います。
P.A.N.通信 Vol.59 掲載