ヌーボーシルク見聞録 vol.4

 この11月、フランス大使館の取り計らいで、ヌーボーシルクの視察を目的に2週間ばかりパリに滞在させて頂いた。
 日中はパリ市やサーカス関連財団の担当者に会って色々とお話を伺い、夜はくまなく公演を観て歩いた。シャロンの国立サーカス学校も見学させて頂いたし、 資料として集められている公演ビデオを思う存分見る事も出来た。
 紙面の関係上、視察内容を分割して紹介していかざるを得ない事にもどかしさを感じるが、今回は個人的に最も感激した事項に関して書くことにしたい。
 それはカンパニー「アポストロフィー」との出会いだった。意識的に探してみても「これだ!」と思える作品に出会える機会が極めて稀な状況の中で、プロ デューサーの端くれの私にとって、心底共感できる作品との出会いは非常にエキサイティングな出来事なのだ。
 彼等の公演はパリの郊外、ラ・ビレットに設置された3つのテントで催されていたフェスティバルの中にあった。
 実のところ、私のお目当てだったのはニュー感覚のジャグリングパフォーマンスで有名なジェローム・トマの公演で、その後、隣のテントで行なわれる予定の 「アポストロフィー」を見る予定はなかった。開演時間も10時半と遅く、ショーが終われば深夜になる。それでも居残ったは、私の直感的な判断に他ならな い。
 ところが、内容はヌーボーシルクというカテゴリーさえ超越した、期待を遥かに上回る、感動的なコンプレックスパフォーマンスだった。
 1人のミュージシャンと1人のパフォーマー。たった2人の空間が現実と幻想を行き来しながら果てしなく広がっていく。コミュニケーションとは?人にとっ て音楽とは何なのか?人とモノとの関係性は?数々の問題提議を含んだ、濃密な時間が流れていく。研ぎすまされた感性と高度な技術が絡み合い、心地よい緊張 感が漂う。
 「芸術性が、ある一線をこえると、本来のエンターテイメント性を帯びてくる」そんな考えを誘発する、あらゆるカテゴリーを超えた最上質のパフォーマンス だった。
 一般的にエンターテイメントという言葉には軽薄なイメージが付きまとうが「人の心や価値観を大きく揺さぶるもの」という定義の上では、エンターテイメン ト性はパフォーマンスにとって重要な要素であるに違いない。
 終演後、躊躇することなく「アポストロフィー」とコンタクトを取り、現在、日本での公演の話を進めている。是非とも皆さんにも観て頂きたいと願ってい る。

P.A.N.通信 Vol.37に掲載

HOMEヌーボーシルク見聞録ページ先頭