ヌーボーシルク見聞録 vol.6
ヌーボーシルクには、サーカスのテクニックを骨幹にしつつも、音楽や美術、あるいはファッション的な要素を多く取り入れた
ものや、ダンス的な表現を重視するもの等、複合的なエレメントで演出がなされる場合が多い。そんな中で演劇の精神を尊重しつつ作品づくりを続けている集団
に「シルク・バロック」がある。
1970年代から活動を始めている事を見ても、まさにヌーボーシルクの草分け的存在であり、約20人のパフォーマーで構成されるドラマチックで躍動感溢れ
る舞台は、観客を熱狂の渦に巻き込んで離さない。
「シルク・バロック」は演劇的な要素を多く取り入れている点で他のカンパニーと一線を画するが、日本との関わりが強いという点でも特筆できる。主宰のク
リスチャン・タゲの奥様が日本人という事もあるが、大の日本贔屓で、1998年には三島由紀夫をテーマにした作品「ニンゲン」で日本公演を行い、彼の息子
のユニット「トリプル・トラップ」等の小規模な公演も含めると、ほぼ毎年のように来日している。アートコンプレックス1928でもヌーボーシルクの実演と
ビデオを用いたレクチャーを開催した。
貸ホール業務が主体の日本の劇場では、欧米のように劇場が作品をプロデュースして公演を打つという形態がまだまだ定着していない。特に、事業予算を持た
ない小劇場が海外からカンパニーを招聘する場合など、金銭的な文化助成のシステムが発展途上の日本では、主催者に経費的に多大なリスクが生じる事になる。
こういった欧米と異なる日本の文化環境や日本特有のシステム等を、海外の制作者に十分に理解してもらうのは難しい。その点、クリスチャン・タゲは日本の文
化状況のみならず日本人の気質まで熟知しているため、準備段階における交渉や段取りに招聘側としてストレスを感じる事が少ない。そういった意味でも彼の存
在は大きいと言える。
クリスチャン・タゲは、約40のサーカス団体からなるヌーボーシルク芸術組合の初代代表を務める等、信望も厚く、世界各地での公演活動以外にも、サーカ
ス学校の運営などを通じて、積極的に世界各国でプレゼンテーションを続けている。ヌーボーシルクを語る上で決して欠かせない人物である。
P.A.N.通信 Vol.41に掲載
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