ヌーボーシルク見聞録 vol.16
今ラスベガスでヒットしているヌーボーシルク系のショーを私なりにランキングするなら、NO1が「KA(カ)」、NO2が「O(オウ)」、NO3が
「ル・レブ」という事になる。「KA(カ)」と「O(オウ)」に関しては以前に書いたので、今回はラスベガスをカジノの街から総合エンターテイメントの街
へと変えた男、スティーブ・ウィンが、3500億という巨額の資産を投じて建設した「ウィンホテル」で公演を続けている「ル・レブ」を取り上げる。
「ル・レブ」とはフランス語で「夢」、スティーブ・ウィン自身が所有するピカソの同題の作品名から取られたらしいが、「O(オウ)」の演出家でもあるフ
ランク・ドラゴンの手によって、まさしく夢幻の世界を表現している。
プールを中心にした円形の劇場は、中世の教会を思わせる装飾を配したドーム型で、荘厳ささえ感じさせる厳粛な雰囲気が入場時から観客の期待感を盛り上げ
る。コンテンツは水と空中芸を中心に繰り広げられるが、同じく水を使用した「O(オウ)」と比べると、よりアーティスティックで大人向けと言えるだろう。
構成はパートに分かれたパフォーマンスをクラウン芸で繋ぐという従来の形だが、観客巻き込み型の笑いとシリアスな水中、空中芸のコントラストが効いてい
て、飽きさせない。
ただ、人の感覚とはある意味、演出家にとっては恐ろしいもので、前半は噴水と光のテクノロジーのダイナミズムも相まって感動の連続となるのだが、後半に
は感覚に慣れが生じてくる。つまり、視覚を中心にした刺激だけでは十分とは言えない、という問題に言及せざるを得なくなる。全てのパフォーマンス、いや芸
術全般にいえる事だが、本当の意味での感動とは何なのか?クリエーターにとって避けては通れない課題であろう。
私にとって感動とは、「自分が持っていた従来の価値観を根底から揺さぶられる」という事に他ならない。そこには五感を通して伝わってくる、より深く豊か
な感性や新しいコンセプトが必要となる。そういう意味で、私にとって、演出家フランク・ドラゴンの感性に初めて触れた「O(オウ)」の方が「ル・レブ」よ
りランクが上であるだけで、完成度に差ほどの違いが無い場合、先に観た作品の方が、感動が大きいと言えるのかもしれない。
エンターテイメントと純粋芸術との違いが論じられる時、私が焦点に置くのは常にこの「感動の質」である。
P.A.N.通信 Vol.60に掲載
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